目次
「プロローグ」(2009年7月29日)

<現状認識>
1、 秋田県の自殺者数の推移(2009年7月29日) 4、 自営業者の自殺者数の推移 (2009年8月6日)

2、 自殺者数増加の緊急事態 (2009年8月1日) 5、 ワーストを続ける秋田県の自殺率 (2009年8月12日)

3、 世界同時不況の影響 (2009年8月2日) 6、 秋田県の民間団体の挑戦 (2009年8月25日)

<自殺予防に挑戦する民間団体>
1、 町村モデルの挑戦「心といのちを考える会」(秋田県藤里町)
(2009年9月3日)
5、「自営業者の自殺者数37.1%の減少」(2010年1月29日)

2、緊急対応の「いのちの総合相談会」の開催!(2009年9月18日) 6、「桜の季節から山燃ゆる季節へ」(2010年5月11日) 

3、「密接な連携」こそ、有効な自殺対策 (2009年11月29日) 7、「梅雨空の合間に希望が見えた」(2010年6月19日) NEW

4、「いのちの光よ、悩める人のこころを照らせ」(2009年12月27日)

「プロローグ」

(2009年7月29日)
 NPO法人「蜘蛛の糸」を立ち上げてから8年目の夏を迎えました。

 倒産の土壇場で苦悩する経営者や家族、夜逃げした一家、不況のあおりを受けて廃業する自営業者等の悩みを聴き続けてきました。この間の相談を受けた会社の数は400社を超え、面談の回数も2000回を超えました。

 虫のような低い目線で「個」の相談を積み重ねると、衰退する地域経済の「全体」や自殺対策の方法がおぼろげに見えます。7年の活動を振り返ると「相談者で本心から自殺を望んでいた人は一人もいない」ということです。

 人間の一生には思いもかけない不幸や挫折に遭遇することがあります。死ぬほど苦しい時があります。自殺したくなる時もあります。「人間は死にたくなる時がある生き物です」自殺したい人の心理を否定するのではなく、受け止めなければなりません。その苦しみも時の経過とともに沈静化していきます。嵐が過ぎ去った後の青空のような気持ちで、あの時に自殺を決行しないでよかったと思う気持ちが蘇ってくるのです。
長い間悩み抜いた人にも適切なアドバイスで「救えるいのち」が幾つもある現実を相談現場で数々見てきました。

 8年目を迎えて、地域の自殺者を減らすために、どんな実践活動すべきかに関心が移ってきました。3年前に自殺対策基本法が制定され、翌年に自殺総合対策大綱が発表されたが日本の自殺対策は緒についたばかり。自殺対策は、相談機関が悩める人のこころの奥底に踏み込み、本当に自殺を防げるのかという基本的な問題を内包しています。
秋田県は、自殺対策基本法に数年先駆けたことにより、「官」「民」「学」の連携も構築され、自殺対策のノウハウを蓄積してきました。対策に底力がついてきたのです。

 今回、「自殺防止の現場力」を立ち上げ全国に発信したいと思ったのは、これから活動に取組む民間団体を意識したためです。前例が少ない活動は、試行錯誤を数年間は繰り返すことになるでしょう。迷走の期間を出来るだけ短縮して実りあるものにするためには、私の試行錯誤の現場体験が役に立つのではないかと。グラフや写真や絵を多用し、わかりやすく現場での自殺対策の問題点や活動上の悩み、対策のあり方について全国に発信いたしますので、活動の参考にして頂ければ幸いです。

1、 秋田県の自殺者数の推移

 (2009年7月29日)
 まず、秋田県の自殺者数の推移から概観します。

 秋田県の自殺率全国一はグラフの色の変化が示している平成7年から始まりました。
それから平成20年まで14年間、自殺率全国一が続いています。
14年間で6,176名が自殺で亡くなりました。この数は中規模の町の人口に匹敵します。14年間で一つの町の人口が秋田県から消滅したことになります。過疎化や少子化で人口が減少している秋田県にとって自殺対策は避けて通ることが出来ない重要課題になってきました。

 県が自殺対策に乗り出したのが平成12年、「蜘蛛の糸」が活動を開始したのが14年です。
その前から秋田大学医学部の研究、啓発、精神科医を中心とした医師会の活動があったと思いますが、それぞれの団体がそれぞれの活動をしていて連携がありませんでした。私自身も活動団体のあることを知ったのは2〜3年経ってからでした。講演会の会場や秋田大学のシンポジュゥムの場で活動団体の存在を知りました。

 秋田県は健康推進課に自殺予防の専従班があります。当時は全国に先駆けた活動だけに担当者の苦労は並大抵ではなかったろうと推察します。秋田県の自殺対策は平成15年頃から次第に関係団体の連携が進んできました。県民の悲しみをこれ以上続けてはいけないと関係者の胸に熱い思いがたぎってきたのです。

 平成15年の519名をピークに平成16年は67名減少、平成17年は前年の5名減少し、翌年の18年は反転して35名増加。平成19年は62名減少、平成20年は11名減少でした。2年間減少し、1年間は増加しています。表から秋田県の自殺者数の減少傾向の特徴が読み取れます。
5年間で110名、20%の減少です。
秋田県、秋田大学、民間団体等の「官」「民」「学」連携が着実に功を奏して来ました。

2、 自殺者数増加の緊急事態

(2009年8月1日)
 梅雨空が続いている7月27日、警察庁から今年の上半期(1月〜6月)の暫定値が発表されました。

 それによると、日本の上半期の自殺者数は1万7076名、男性が1万2222名、女性が4854名でした。
前年同期比で4・7%の増加。全ての月で前年を上回っています。
このままでは最悪だった平成15年の34,427名に近づくペースです。緊急事態の発生です。
日本の自殺者数は3万人を切らないどころか、3万5千人を超えないかと心配になります。人数の多さに思わず慨嘆のため息がでました。日本人の生きる力はどうなってしまったのでしょう。

 今年の日本の自殺者数はどうなるか。私は昨年の12月9日、参議院経済産業委員会に参考人として招致された時のことを思い出します。
リーマンブラザーズの破綻に端を発した世界同時不況が地域経済にどの様に影響しているか、と自殺の関連について、特に首都圏と秋田県の県民所得の格差について意見陳述しました。
参考人は東京商工リサーチの情報統括本部長、錦糸町商店街振興組合代表、大田区の精密機械会社の経営者との4人でした。その委員会で精密機械製造業の社長が陳述で「11月の受注が90%減った。来年はゼロになるかも知れない」と発言した時、日本経済は容易ならざる事態に直面したと実感したのです。
来年は自殺者が増える。平成21年と22年の2年間は自殺対策の正念場の年になると。上半期の数字は残念な予感が的中しつつあることを示しています。

 同発表では秋田県の自殺者数は前年と同数の223名でした。男性161 名、女性62名。上半期の自殺者数を月毎に昨年と較べてみると、1月ー3月は1月が2名、2月が8名、3月が1名と連続して減少し、合計で11名減少しました。
この段階では、一昨年来の減少傾向が継続していると思いました。ところが、4月に昨年の35名から51名に、いきなり16名も増加したのです。
5月は6名減少、6月1名増加で、上半期は昨年と同じ人数でした。前年の年間合計は405名でしたから、下半期に182名以上増加すると、減少傾向に翳りが差すことになるでしょう。

 対策も21年と22年は不況を意識した緊急事態対応になるでしょう。秋田県の関係団体の底力が試されています。

3、 世界同時不況の影響

(2009年8月2日)
 7月27日に発表された秋田県の上半期の自殺者数をもう少し詳細に見てみます。年齢別や動機別、職業別の実態を見ることによって、対策を考える参考になるからです。

 秋田県警生活安全課の纏めによると、上半期の自殺者数は既述の通り223名。年代別では50代が56名で最多、60代が40名、40代が31名、30代が28名を占めています。
30代から50代の働き盛りが51%と半分以上。30代の若者の自殺が13名も増加しているのが気にかかります。
30〜50代の働き盛りの人が自殺に追い込まれているのも残念でなりません。
 動機別は複数計上で、合計が自殺者数と一致しません。しかし動機別の分析は対策上の有効な方法を示唆しています。対策を打つ優先順位を示しているからです。

 円グラフによると、主な動機別の順位は健康問題33.9%、生活・経済問題29.0%、家庭問題7.6%、勤務問題3.8%、になります。不況を反映して生活・経済問題の動機の割合が増加しています。家庭問題は金銭的トラブルや家族の失業が、勤務問題はリストラや派遣切り等の原因が考えられ不況を反映してのことでしょう。
生活・経済問題、勤務問題、家庭問題の合計の40%で、世界的同時不況が地域経済に影を落とし、家計を圧迫して自殺者の増加に結びついて来たと考えられます。
 職業別は無職者が122名と半分以上(54・7%)を占め、相変わらず多い数です。勤め人は67名、自営業者は33名でした。

 「蜘蛛の糸」の活動目標は、中小企業経営者と家族の自殺者を10年間で、活動開始時点の89名から半分の45名以下にすることにあります(職業別に中小企業経営者と家族の分類はありません。自営業者と家族従事者の数字を採用)。
自殺対策を考える時、全体の自殺者数を減らすことが理想ですが、現実はそう甘いものではありません。現場で活動していると自殺問題の複雑さと難しさに「ウンウン」と悲鳴を上げながら格闘しているのです。

 まずは「減らせる自殺から、減らしていく」。そのためには、「減らせる自殺は何か」を考え、「減らすための実践活動を展開する」これが現実的な対応の在り方ではないでしょうか。マンパワーも資金も不足の民間団体が「減らせる自殺とは何か」を次第に明らかにしていきます。

4、 自営業者の自殺者数の推移

(2009年8月6日)
 自殺者数の統計データは二つあるのをご存知でしょうか。
一つは、厚生労働省が発表する自殺死亡統計の概況。
他の一つは、警察庁生活安全局が発表する自殺の概要資料です。

 県単位では前者は秋田県の発表に、後者は秋田県警の発表になります。両者の違いは、警察庁の発表は日本における外国人も含む総人口が対象であり、厚労省は日本における日本人を対象にしています。

 また警察庁は発見地を基に自殺死体発見時点で計上しているのに対し、厚労省は、住所地を基に死亡時点で計上します。
県内に住民登録している人の自殺は秋田県の発表に、他県人でも秋田県のエリアで自殺した人は秋田県警の発表になる、と考えていいでしょう。属人主義と属地主義の違いです。両者の数字は必ずしも一致しません。県の人口統計の数値よりも県警の発表数値が多くなる傾向にあります。

 民間団体が活動を考える場合は、数字の細部にこだわることはありません。統計の迷路に入るよりも活動に役立つ数字だけを大まかにピックアップすることが大切でしょう。統計数字は対策の方向性を示してくれますから。

県警発表の職業別の項目に「自営業者・家族従事者」の項目があります。中小企業の分類はありません。
相談の実態も農・林・漁業、小売業、サービス業、建設業、製造業、個人商店等と多岐にわたっていますので、県警の分類に従って「自営業者・家族従事者」のデータを参考にします。過去に遡って新聞発表を繋ぎ合わせて下表を作ってみました。
秋田県警の発表の推移をみると、自営業者の自殺者数は平成14年の89名をピークに下がってきたことがわかるでしょう。また全体の自殺者数の15〜18%であることが読み取れます。
日本全体で自殺者数32,249名の内自営業者は3,206名で9.9%です(警察庁発表平成20年)。日本全体よりも秋田県が5%程度高くなります。
地方の経営者の苦渋が察しられます。「がんばっても、がんばっても」経営不振のまま逝った経営者の無念が数字に現れているのです。

 活動を開始した平成14年時点では自営業者の自殺者数は89名でした。4年目の平成17年から70名台になり、19年から60名台になりました。昨年は67名です。活動開始時点から22名、25%減少したことになります。
しかし、率直な感想としては、経営者の自殺者数が減少した、との実感はありません。経営者の自殺は減せる、と思っていますが、今年は100年に一度の不況が地域経済を襲っています。増加を食い止めるだけでも必死です。

 「地域経済に長い間貢献してきた中小企業経営者を死なせてたまるか」。暑い夏の8年目の苦闘の日々が続いています。

※ 赤は秋田県の自殺者が急増した年
※ 黄色は蜘蛛の糸が活動を開始した年

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5、 ワーストを続ける秋田県の自殺率

 秋田県の実情を知って戴くために、もう少しだけ、統計数字にお付き合いください。殆どの統計数字は、過去数字の羅列であり、無機質なものですが、自殺者数の統計は、その背後に一人ひとりの尊い命の犠牲があります。
人生の終焉の悲しみが統計数字になっているのです。数字の背後に何人の遺族の涙と悲嘆があることでしょう。
冷徹な数字を凝視することによって、背景にある社会事象や自殺誘引の原因、誘引を引き起こした失策や地域風土の影が見え隠れし、対策の思考を構築するための重要な基礎数字になります。

 秋田県の自殺率の推移はご覧の通り。
平成20年は自殺率37.0。平成10年からの11年間で最低の数字に下がってきました。
県のホームページから最近の自殺率を抜粋してみました。
この表から秋田県の自殺率ワーストが続いていることはわかりますが、秋田県の自殺者数の推移で説明したように、5年間で110名も自殺者数が減っているのに何故ワーストを抜け出せないのか、何人減ったら自殺率がワーストでなくなるのか、計算してみる価値があります。ワーストを抜け出すための「課題」と返上にむけた対策の「壁」の存在を確認するために。
1位は秋田県、2位は岩手県、新潟県、青森県、3位は、新潟県、宮崎県、岩手県、山形県、島根県で2位と3位の県は入り代わります。4位、5位の県も順位の入れ代わりがあります。
なのに、秋田県のワーストが継続しているのは、1番と2番の格差が大きく、2番と3番、3番と4番、5番の格差は小さいからです。自殺者数は減少しているが、分母の県民人口が減少しているのでワーストのままである。これが、秋田県の現状かと。

 3年前の夏、東京で民間と行政関係者で自殺予防に関する交流会がありました。
隣席の九州の行政担当者から「秋田県の自殺対策は進んでいると聞いていますが、ワーストが何年も続いているのは、自殺者は減っていないからではないですか」と質問されました。
「自殺者数は減少しています。人口の流出で分母の人口が減少しているので、率が下がらないのです」と精いっぱいの答えをしたことがあります。
他県の人が秋田県に抱いている一般的な認識を代弁する質問だと思いました。
5年間で110名、人数で20%も減少している。なのに、自殺率が一番から抜け出せない現実。
自殺率の順位は他県の動向と関連する相対的な数字です。秋田県が下がっても他県の数字も下がるとワーストのままになります。

 自殺率の減少に焦点をあてて対策を打つべきか、自殺者数の減少に焦点を当てて対策を打つべきか、対策を考える上での重要な視点が潜んでいます。ワーストワンの返上はどうすれば可能か。実態を明らかにしていく過程で、秋田県の抱えている「課題」と対策の「壁」が見つかるかもしれません。「課題」は解決されるために存在し、崩壊しない「壁」など存在しない、と思うのです。

6、 秋田県の民間団体の挑戦

ここからは、秋田県の民間団体の活動について書きます。
「自殺防止の現場力」の文章は、起承転結を考えて書いている訳ではありません。
徒然なるままに、という気分で、気のむくまま、こころの趣くままに書いていきます。

活動団体を紹介しながら、民間団体の出来る自殺予防とは何か、活動の隘路になっていることは何か、どんな活動の展開をしているのか、緊急時の対策についての行動、等を会のリーダーや会員の声を傾聴しながら、自殺対策の課題と対策を明らかにしていきます。民間団体のやる気の実態と活動の苦悩も見えるでしょう。関係団体が主催するシンポジウムや小集会に参加し、前向きの意見をどんどん発信します。課題と対策、喜びと希望の現場から臨場感をもってお伝えします。
最前線で取り組んでいる活動団体の「ナマの声」から、自殺対策のヒントが見えるのでは・・・・・。

2006年12月1日、自殺対策基本法の制定に呼応し、民間団体の情報交換と連携の必要性を感じ、自殺予防「こころのネットワーク」(現、秋田・こころのネットワーク)を結成いたしました。設立時は9団体でした。
現在は会員が増加し、20団体になっております。不肖、私が会長。「こころのネットワーク」以外の14団体と合わせて、県内団体は合計34団体になります。
民間団体に限りませんが、行政関係者であれ、大学の関係者であれ、医師であれ、司法関係者であれ、今、自殺防止に取組んでいる人や組織は「勇気のある挑戦者」である、というのが私の認識です。
自殺対策基本法が制定され、自殺総合対策大綱で対策の骨格が示されていますが、日本の自殺対策は揺籃期にあります。自殺対策には、これぞといった妙案は現時点ではありません。従って、活動する人達は前例のない「道を切り開く」挑戦者になります。いつの時代でも未知の分野に挑戦し「新たな道」を切り開く者は勇者です。度胸と胆力と情熱が無ければできません。それに、活動を継続する意志力と。
(「こころのネットワーク」設立時の写真と地元魁新報の記事を掲載しました)

自殺対策新時代シンポジウム(2006.12.1)
次回から地域で自殺予防に挑戦する民間団体の動きを紹介していきます。
最初は、秋田県と青森県に跨がる世界遺産「白神山地」の麓で、活動を展開している秋田県藤里町の「心といのちを考える会」(代表袴田俊英さん)を紹介します。
初秋の「白神山地」を渡る風と、樹齢200〜300年のブナ林の風景を添えて。


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